対処方法
認知症を早く発見するには
患者自ら進んで受診することは少なく、ほとんどの場合 、日常生活の異常に気づいた家族に連れられて受診することになります。
診断には問診が大切
記憶では最近の記憶障害が最も早い時期に起こります。数日前の出来事や買物に行き買った物、他人からの伝言、金銭の収納場所などを忘れていることがあります。ごく初期には、他人から指摘されると一部を思い出すこともあるが、次第にすっかり忘れてしまうようになり、職場や家庭でミスが出るようになります。この時期には、今日の日付がわからないので「今日は何日か」と繰り返して尋ねるようになります。また、生活態度にも変化がみられ、趣味をやめて家にひきこもったり、会合に出るのを嫌がったり、積極性がなくなります。症状の経過にも特徴があり、発症時期を特定するのが難しいほど潜行性に発症し、数年の経過でゆっくり進行します。
診察場面では、質問に対して「まあまあです」とか「いつもの通りです」といった差し障りのない返事をして、実際は忘れてしまったことでも言葉を取り繕い、その場面に合わせてしまう言動が観察されます。以上のように、患者本人への問診だけでは症状と経過を把握することは不可能なので、本人の生活状況をよく知った同伴者から情報が重要になります。
患者の診察
認知症の評価には、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が簡便で短時間で行えるので一般に利用されています。30点満点で20点以下が認知症の疑いと判断されます。アルツハイマー型認知症の初期には、総得点は認知症レベルになくても、日付の不正解と遅延再生の障害だけが認められることがあり、テスト項目の中では「さくら、ネコ、電車」など3単語の遅延再生に注目しておく必要があります。また、手足の運動障害を伴わないのが初期アルツハイマー型認知症の特徴です。
MRI・CT検査
問診や診察で認知症の疑いがもたれたら画像診断は欠くことができない検査です。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など治る認知症を発見するために早期に検査することが望まれます。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症、前頭・側頭型認知症との区別にも有用です。アルツハイマー型認知症では初期変化として海馬の萎縮がみられます。しかし、高齢になるほど認知症でない人でも脳萎縮を認めることは珍しくなく、脳萎縮が認められたら即アルツハイマー型認知症と診断するのは早計です。
一方脳SPECTは、早期アルツハイマー型認知症の最も有力な診断検査となり、MRIでは明らかな形態学的異常が認められない時期に機能異常を見いだすことができます。
薬物治療
アルツハイマー型認知症にたいしては、ドネペジルが唯一使用可能な薬剤でしたが、平成23年ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの3剤が認可されて治療薬の選択肢が増えました。これらは神経細胞の機能を高めて、症状の改善や症状の進行抑制を図るもので、問題となる副作用は少なく、外来で使用しやすい薬剤です。
患者のQOLを低下させずに長く維持するためには、できるだけ早期からの使用がより効果的です。ただし興奮、幻覚、妄想、攻撃性などの精神症状が活発にみられる時期には、これらを悪化させることがあり、慎重な投与が必要です。また、脳梗塞を合併している場合でも効果が期待できます。
漢方薬では抑肝散が易怒性、興奮、幻覚、不眠などの症状によく用いられています。
介護上の留意点
現在認知症の進行を止める薬剤はなく、したがって長く続く療養の中心は介護になることは言うまでもありません。介護のキーワードは「穏やかに生きる」ことではないでしょうか。認知症は脳の病気であることを認識した上で、患者自身が「できること」と「できないこと」を見極めることが最も大切です。例えば、料理が作れない、服が着られない、トイレの水が流せないとしたら、「できないこと」として、介助するなり、代わってやることです。できるようになることを期待して指導することは患者の尊厳をきずつけることになります。
2012年年11月
よしなが神経内科クリニック 好永 順二