認知症とは
認知機能が(後天的な脳の障害によって)持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。
アルツハイマー型認知症
「初期症状」
代表的なのはアルツハイマー型認知症で、認知症全体の半数以上を占めます。典型的な症状は、記銘力の低下です。昔のことはよく覚えていますが、数分前のことを忘れてしまいます。携帯電話、印鑑や通帳、保険証など大事なものの置き忘れ・しまい忘れが目立つようになり、探し物が増えてきます。また、今までよりも段取りが悪くなって仕事や家事に時間がかかったり、うまくできないことが増えたりします。
「病気の経過」
軽度では、仕事や家事などに支障が出てきます。軽度の段階でも、薬の管理などは難しくなりますので、声掛けや見守りなどのサポートが必要です。
中等度になると、毎日の生活にお手伝いが必要になってきます。
やや高度になると、生活全般にお手伝いが必要になり、非常に高度になると、動作そのものが難しくなってきます。
「適切な対応」
ご病気なので、できなくなったことは、何度言われても頑張っても上手くできないことが多いです。ご家族の叱咤激励は、かえってストレスになって、不安になったり、怒りっぽくなって、暴言暴力の原因になることがあります。病状をよく理解して、できることは継続し、難しくなったことは適切にサポートし、手伝ってあげることが大事です。ご本人の自尊心が守られるような笑顔、ありがとうという感謝の声掛けがあると、安心して穏やかに過ごして過ごしていただけます。
「治療」
現在のところ、根治する治療はありませんが、進行を抑える薬があります。物忘れが改善するといいうよりは、できるだけ今の状態を保ち、生活に支障が出るのを遅らせる薬になります。
治療の効果は早期ほど期待できますが、進行してからでは改善の余地は少なくなってしまいます。今、それほど困っていなくても、使えるのであればしっかり治療して進行を遅らせることが大事です(喘息や心疾患、胃腸症状などで薬が使用しにくい場合があります)。
「予防」
アルツハイマー型認知症は、症状が現れる20年以上前から、脳の変化が徐々に進行していることが分かっています。予防のためには、バランスの良い食事や有酸素運動、生活習慣病の予防や治療、知的や社会的に活動的な生活、しっかり睡眠をとること、禁煙や節酒などが大切です。難聴があれば補聴器を使用したほうが、認知症の予防に役立つことが分かっています。白内障なども、必要な場合は手術などで見えやすくした方が、認知症の予防になります。
血管性認知症
脳梗塞・脳出血などの脳血管障害が原因で起こる認知症を血管性認知症といいます。脳血管障害の神経症状に加えて、思い出すのに時間がかかったり、段取りが悪くなったり、うつ症状がみられやすくなったりします。アルツハイマー型認知症との合併も多くみられます。
脳血管障害の予防には、血圧のコントロールなど生活習慣病の予防・治療が大切です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、大声で寝言を言ったりするレム睡眠行動異常症やありありとした幻視、動作緩漫などのパーキンソン症状、調子の波などが特徴とされるタイプです。
初期は物忘れよりも、注意力や視空間認知の障害、段取りが悪く時間がかかる遂行機能障害などが目立ちます。便秘や立ちくらみ、血圧や脈拍の変動など自律神経障害がみられるのも特徴です。病初期からうつの症状がみられることも多いです。認知症の治療薬で症状を改善できるのですが、もともと多くの薬剤を使用されていることが多く、薬の副作用がみられやすいので注意が必要です。
「鑑別診断」
正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、貧血など、治療で認知症症状が治る場合もありますので、物忘れや正確変化など何か気になったときは、ぜひお早目にかかりつけの先生や認知症専門医にご相談ください。
認知症は早期ほど診断が難しいので、症状が軽い時期は、とくに専門医の受診をお勧めします。
治療の必要な別の病気が見つかることも多いので、物忘れが出てきたら年のせいにせず、早目に検査を受けて下さい。
井門ゆかり脳神経内科クリニック 院長 井門 ゆかり
2022年8月